は4歳から13歳までを神戸で育った。やがて太平洋戦争が激しくなり家族で徳島県の海岸の町に疎開することになった。
 昭和21年、南海大地震。津波が疎開先の町を襲った。
 海岸には足の踏み場もないほどの瓦や柱、家財道具が散乱し、町役場の屋根に漁船が乗り上げていた。私たちはかろうじて命は助かったものの多くの家財をなくした。
 震災3日後、電柱にビラが張られた。
「がんばれ、みんなが応援している」
「人生は、七転び八起きだ」
 当時としては驚くほどの早い対処であった。
 みんなが自分たちを見守って励ましてくれていることを子供心にも知った。ビラの言葉は被災者の心の大きな支えになる。
私は尼崎市で印刷業を営んでいる。
今度は阪神淡路大震災である。神戸の町が燃えている。激励のステッカーを作って被災地へ飛んでいきたくなった。
 作業場では、製版機のガラスが割れて飛び散りインクはこぼれて床をベッタリ覆っている。キャスタのついた機械は右に左に動いてお互いにぶつかり壁につっこんでいる。
 その中でステッカーのフレーズを考えた。
「がんばれ! 世界中が応援している」
「みんな力をあわせて、さあ復興だ」
「負けてたまるか、人生は七転び八起きだ」
 しかし製版機も印刷機も使いものにならない。同業のS印刷に電話して印刷を頼んだ。急いでもでき上がりは明日になるらしい。当然である。とにかく息子が原稿と用紙を運んだ。彼が帰るとすぐでき上がりの連絡が入った。なんと早いことか、みんなが私に協力してくれているのだ。
 できた印刷物を縦25センチ、横8センチに断裁した。全部で600枚ほどをリュックに入れた。
日、地震から3日目。午前5時に起きてまだ暗い外に出た。地上のことは関係ないとでもいうようにきれいな満月が中空にかかっている。風が針になって肌に突き刺さる。JR立花駅まで行くうちに夜があけた。
 JRは西宮までしか通じていない。代替バスの窓に凄惨な風景が続く。ステッカーなんかを張ると人々の心を逆なでするのではなかろうか。考えていると今日の行動に自信がなくなってくる。バスを灘駅前で降り西へ向かって歩いた。上筒井通りは意外に被害が少ない。路地に入り住宅街を歩いてみた。
活用品を商っていたらしい住居兼店舗が焼けていた。公衆電話が焦げてグニャっと変形している。わずかに緑色が残っているその電話機に「人生は七転び八起きだ」のステッカーを張った。
 「頭上注意」と書いたダンボール紙が風に揺れて道路にかぶさるように大きく傾いた家がある。閉じ込められた人を救い出したのであろう、道路にいっぱい家財道具が散らかっている。放り出された箪笥の引き出しには洗濯した肌着がきちんと並べられていた。地震直前までの平穏な暮らしがうかがえる。うつぶせになった箪笥の裏板に「がんばれ世界中が応援している」を張った。
 三宮近くまで行くと手元には「みんな力をあわせて、さあ復興だ」のステッカーだけがたくさん残った。張る場面がないのである。命からがら逃げ出した人に「さあ復興だ」とは言えない。
いのに家の前でポツンと椅子に座っているおばあちゃんがいた。
「怖かったねぇ」と声をかけてみた。
おばあちゃんは話し出した。一方的にしゃべってとまらない。家族はそれぞれの職場に出て昼間、家ではおばあちゃんがひとりだという。今でも柱や天井が音をたてて揺れるのが頭に浮かんで怖くて家の中ににいられないらしい。
「電灯が大きく揺れて・・・」「○○さんが水をくれて・・・」「枕元にあった薬が・・・」「電気はついたが、水が・・・」
私の母親がもし生きていたらこんな歳かなと思いながら、しばらくそこにいた。
週間ほどしてまたステッカーを作った。今度は作業場が片付いたので自分で印刷した。
この前の経験で実際に呼びかけやすい言葉を考えた。
「ファイトファイト、元気を出してください」
「また笑う時もある。お身体大切に」
「ピンチはチャンス、よみがえれ神戸の街」
自立を願って
「世界中が応援している。さあ立ち上がろう」
「負けてたまるか!人生は七転び八起きだ」
 それぞれ240枚ずつ合計1,200枚できた。
 2回目は子供のころ住んでいた御影の街を歩いた。
ャッターの降りた楽器店がある。長年、営んできた店をやめるというビラが張られていた。私も自営業者である。店をやめなければいけない事情はおおよそ見当がついた。仕事がなくなることは家が壊れる以上につらい。見ず知らずでもその店のご主人の気持ちを思うと胸が痛い。
 シャッターに
「また笑う時もある。お身体大切に」を張った。
 2、3メートル離れて振り返って見ると店の人が道行く人に呼びかけている格好になっている。私は店のオーナーに申し上げたいのである。剥がしてどこに張ろうかと考えた。ステッカーの裏はシャッターの埃で粘着性がなくなっている。風に飛ぶのを覚悟してコンクリートの上に置いてきた。
いた家並み、それぞれに同じポスターが張られている。
「泥棒が横行しています。無断で家屋に入った者は、自警団により袋だたきにします」
 警察も忙しく手薄な時である。書いてある言葉は過激だが深く考えるとせつなくなってくる。
 近づくとミシミシと音がしている。軒のテントに手が届いた。自分は今なにをしているのだろう、こんなことをして誰が助かるというのか。自分のしていることが空しくなってくる。
 ステッカーを張っていると後ろに人の気配がする。振り向くと自警団らしい人が二人立っていた。「袋だたき」が頭をかすめる。
「何をしているのですか?どちらの団体ですか?」
 と聞いてきた。私はびくびくしながら、ひとりで勝手にやっていることを伝えた。 彼らはステッカーの文字を見た。
「ありがとうございます。ご苦労さまです」
 言いながら深々と頭を下げた。


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